- 業界
- 教育
- 職種
- その他
- 予測テーマ
- その他
- 従業員規模
- 51~100名
東京から大型客船で最短6時間、伊豆諸島最大の島「大島」にある東京都立大島海洋国際高等学校。東京都内で唯一、水産・海洋関連分野を学べる学校です。同校では、海洋に関する座学や航海実習などを通じ、未来の海洋人材を育成しています。
そんな大島海洋国際高校がどうしてPrediction Oneを導入したのか、導入後に得られた効果ついて、海洋科主任の網谷先生と生徒5名に伺いました。
網谷先生:大島海洋国際高校の海洋国際科は、航海士やエンジニアなどを目指す生徒達が集まる学科です。本校では「海に学び、未来を拓く。」をコンセプトに、世界の海洋に関わる人々と協働できる人材を育成しています。
Prediction Oneを導入した理由は、主に2つの目的によるものです。
今後AIが社会に普及し単純業務などがAIに置き換わっていくのは止めようがない流れですし、生徒たちが社会に出るときにはその傾向がより顕著になると考えています。船の運転に関しても、遠くない将来に自動化される可能性もあると思います。
その際にAIの基礎知識がなかったり、やみくもに拒絶するようなマインドセットだとまさに「AIに仕事を取られる」ことになりかねない。そうではなくAIを使いこなし、共存できる社会人になって欲しいとの思いからAIの導入を検討していました。
とはいえ、プログラミングの知識がない生徒に一からAIを作れと言うのは現実的ではないですよね。よって、AIやプログラミングの知識がなくても簡単に扱えるPrediction Oneを導入することにしました。
網谷先生:Prediction Oneは、航海系の授業を選択した11名の3年生が利用し、東京と伊豆諸島の間で運航している船の「就航予測」に活用しています。ここでいう就航予測とは、大型客船やジェット船が何%の確率で就航するかを予測することです。
テーマにしたきっかけは、本校に在学していた八丈島出身の生徒と話をした際、島のライフラインである船の就航が分かれば、物資が届くか届かないかの予測や島を出る計画を立てやすくなる。また観光客にとっても旅行計画が立てやすくなるのではないか?と考えたからです。
島民や観光客の役に立つことができる、八丈島の就航予測は社会的意義が強いと考え取り組むことに決めました。
過去のデータをもとにまず予測モデルを作り、予測モデルに予測したい未来のデータを投入して分析します。伊豆諸島には全部で8つの島がありますが、そのうち神津島では、データを渡して予測モデルを作るところから生徒に担当してもらいました。実際の運航状況と95%ほどの合致と、高い精度での予測が実現できました。
網谷先生:そうですね、例えば1月8日に対する就航予測であれば7日前の1月1日から予測を行っています。7日前から予測をしているのは、人間の行動に合わせてです。
天気予報をイメージしていただければ分かりやすいのですが、皆さん旅行や、帰省や、出張などで出かける際、当日の天気はどうなのか、台風などが来ていないか、1週間前くらいから気にし始めるのではないでしょうか。
また、スーパーの仕入れなどの場合も船便が出るかが1週間前くらいから分かると、納品日に欠航する場合に商品が届かなくなるリスクや、消費期限の短いものが期限切れになるリスクなどを事前に予測することが可能となります。
このように1週間前位からの就航情報が求められるので、7日前から連続して予測を行っています。
網谷先生:もちろんPrediction One以外も検討したのですが、他社ツールはプログラミング知識を持っていることが前提でした。前述の通り「プログラミングの知識がない生徒でも扱えるAIツール」を探していたため、簡単に操作できることが強みであるPrediction Oneの導入を決めました。
例えば、気象情報の説明変数(※2)を試行錯誤する際、Prediction Oneでは希望する項目をチェックするだけで使用したい説明変数を都度選ぶことができます。
一方で、他社ツールの場合は選択項目を変える場合でもプログラムを書き換える必要があり、専門知識がない生徒にはハードルが高いと感じました。Prediction Oneは、データ投入後の数クリックで簡単に予測分析ができるので「こんな簡単に高度な分析ができるのか」と驚きましたね。
網谷先生:気象情報アプリを活用しながら気象データを用意したのですが、1年間分のデータを毎日取得するのは大変でした。私たちが使用した気象情報アプリでは1年分のデータをまとめて取得できなかったからです。
Prediction Oneに投入していたのは、次のような項目の3時間ごとのデータです。
<海洋国際科の生徒さん達が実際にデータ投入していた説明変数の例>
東京と伊豆諸島の間で運航している船には、「ジェット船」と「大型客船」の2種類があります。このうちジェット船は比較的欠航しやすいため、より予測の重要度も高いと考え、学習用データを試行錯誤しながら予測していました。
網谷先生:初めから良い精度が得られたわけではなく、試行錯誤を繰り返して95%の精度まで持っていきました。だいたい2カ月くらいモデルのブラッシュアップを行いました。
網谷先生:説明変数の出し入れですね。例えば、当初は朝から夜まで1日分の気象情報を入れていましたが、夜に出航する船の予測モデルに朝の情報は不必要ではないかと仮説を立てて削ったところ、予測精度が30%上昇しました。その他にも最大風速を削ったり、削って予測精度が下がった場合は戻したり…と説明変数を細かくチューニングしていくことで納得のいくモデルができました。
網谷先生:はい、公の場に発表する以上、予測結果を見た方の行動に影響を及ぼしてしまうことを意識しながら投稿するようにしています。具体的には、「出航」と発表して「欠航」になってしまうと影響が大きいため、出航判定を厳しめにしています。
「出航」と言われて港に向かったのに欠航してしまった場合、無駄足になってしまいますよね。一方「欠航」判定なのに出航された場合は、ラッキーだと前向きに捉える方が多いのではないでしょうか。このように、行っている予測がどんな方にどういった影響を与えているか考えて活用することが、予測結果を活用するコツではないかと思います。
網谷先生:ビジネスにおいても、AIの判断結果をどこまで信頼して良いのか、外れた場合の責任は誰が取るんだという議論はつきものだと思います。ただそれは人が予測をしても同じです。
大事なのは偽陽性※3(欠航を誤って就航と予測すること)と偽陰性※4(就航を誤って欠航と予測すること)のどちらの方がリスクが少ないかということを考え、最終的な閾値(※5)は人が設定することではないかと思います。
網谷先生:私たちは就航予測を日々Twitter上で発信しているのですが、投稿を見た人から「予測が当たりましたね」「いつも皆さんの就航予測を見ています」などとメッセージが届きます。観光客が見ているのか週末は投稿の閲覧数が多く、実際に反応があると嬉しいですね。
網谷先生:今回Prediction Oneを導入した目的は、AIへの理解度を高めることでした。生徒たちはAIにできること、できないことがわかったようなので、当初の目的は達成できたと思います。
「いくらAIが普及しても人間の判断や専門知識は必要不可欠」と生徒に感じてもらえましたし、船の自動化が進むなか「この先も船の仕事に人間の力は欠かせない」と生徒に伝えられました。来年以降に指導する生徒にも、Prediction Oneを使ってもらう予定です。
また、今後は本校の別のクラスでもPrediction Oneを活用する予定になっています。生徒たちには「AIにできないことを推測し、人間の力が必要な作業に率先して取り組む航海士」になってもらいたいです。
笹口さん:使用前は「AIツールは専門的な知識を持った人しか使えない」「とっつきにくいもの」というイメージを持っていました。でも、Prediction Oneの操作は思った以上にわかりやすかったです。
「AIツールを開発する人と活用する人は、別の立ち位置であること」を理解でき、「AIツールの開発側に回ってみたい」という感情も生まれました。
佐藤さん:「モデル作成のためにデータ収集すること」の重要性がわかりました。もっと色々な分野でAIが活用されるように普及して欲しいです。
古内さん:実家で野菜を育てているので、種の発芽率を予測できると良いなと思いました。
笹口さん:AIツールを活用することで、誰でも気軽に予測できることがわかりました。
山浦さん:観光レジャー施設での活用も相性が良いと感じました。例えば、風が強いとアトラクションが運休になってしまうので、事前に予測した結果がわかると観光客の役に立つと思います。
松元さん:AIツールで海域や時期ごとの漁獲量を予測して、漁師さんのサポートができると嬉しいです。
網谷先生:Prediction Oneを使うことで、AIに苦手意識を持っている人もAIのことを理解しやすくなると思います。さらにPrediction Oneなら、プログラミングの知識がなくても思い通りAIツールを扱えるので、まずは気軽に触れてみて欲しいですね。
また伊豆諸島へ観光に訪れる家族は、海好きが多いと思います。Prediction Oneを使った就航予測の取り組みをSNSなどで発信することにより、観光に来た子ども達が大島海洋国際高等学校に興味を持ってくれたら嬉しいです。
<その他天候データを利用したPrediction Oneの活用例>